【短編小説】チート武具『あすきヴァ―』が強すぎて刃が立たない件

小説とか

 自作短編小説、を晒すページです。文字数は5千、読了目安は10分です。

 あらすじ:なろう系の波に乗りたいだけの人生だった。

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グランドサマナーズ

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あすきヴァ―

 ダイヤモンドはどれ程までに硬いのか。
 仮にこんな疑問を投げかけられたとして、イメージをつかむことができる人間はごくごく少数だろう。日常生活に何ら馴染みのない、庶民から見れば空想上の産物にも等しい最硬の宝石は、しかし『硬いこと』において具体性を伴わない。

 ならば、自分の理解できるものに置き換えて考える、という選択は、決しておかしな話ではないではないか。そう弁明する僕だったが、どうやら彼女は納得してくれないらしい。いや、受け入れたくない、と表現した方が適切か。

「……怒っております?」
「怒ってはいないよ。ただ、わたしには笑えなくてね」

 目の前で、黒髪の少女が渋い顔を浮かべている。その表情は3割の感動と7割の呆れで構成されており、目線は僕の手元にある異物へと向けられている。複雑に絡み合った彼女の感情は妙な化学反応を起こし、発生した気体はため息となって外部に放出される。

 なんてことをしてくれたんだ。そう言いたげに口元をもごもごと動かす姿は、はたから見れば弟を諭す姉のように映るのだろう。しかし、僕と少女の間に広がる空気は、そんな微笑ましいものでは断じてない。この場に漂う気体は、どうしようもないほどに冷え切っている。

「井村さんのアドバイスの通りにやってみたのですよ。重要なのはイメージの強さ、そう教えてくれたのは井村さんじゃないですか」
「ああそうだね。だが、いくらイメージが大切だからといっても、だ」

 こうして言葉を交わしている今も、辺りの温度は肌で分かるほどに下がり続けている。それもそのはず、この空間に似合わない冷えの源が、これでもかというほどに寒波を放っているのだ。そして、諸悪の根源を握っているのは、残念ながら僕だった。
 通りがかった人々はみな揃って足を止め、僕らのやり取りを遠巻きに見守っている。野次馬などという無粋なものとは少し違う、相談すれば親身になって聞いてくれそうな、好奇心と同情で形作られた感情があちこちから伝わってくる。けれど悪意のないそれらは、僕の惨めさを一層引き立てていた。

 果たしてこの身は、この世界に召喚されたばかりの冒険者は、それほど重大なミスをしてしまったのだろうか。戯れが全くなかったといえばウソにはなるが、少なくとも8割以上は本気の判断だ。貧相な想像力を目いっぱいに働かせ、どうにか最善を尽くそうとした結果だった、のだが。

「武具のイメージにあすきヴァ―を使う冒険者がいるとは思わなかったよ! あれだけ慎重にやってくれと言ったじゃないか!?」

 黒髪少女の悲痛な叫びが、冒険者ギルドの中を反響した。

*

 モース硬度。物質の硬さを10段階で表す指標のことで、主に鉱物の傷のつきにくさを示すために用いられる。例を挙げると、石英が7、トパーズが8、ダイヤモンドが最高ランクの10。どれもが誇り高く輝く、僕のような一般人には触れることすら許されない、ある意味で異世界の産物だ。

 けれど、それに匹敵する庶民の味方は意外なところに、具体的にはコンビニの冷凍ボックスの中に存在する。冷え切ったのあすきヴァ―をこの指標になぞらせると、実にサファイアと同等、ランク9相当の硬度になるのだ。これはもう、あすきヴァ―はこの世で2番目に固いといっても過言ではないのではなかろうか。

「いや、でも流石に見栄えを考えよう? あすきヴァ―で剣を防ぐ戦いなんて、わたしは見たくないよ?」
「井村さん、それも庶民的でいいじゃないですか。冒険者は民衆の味方、そんなアピールにもなるだろうし」
「ならないよ。あすきヴァ―職人は自分の作った甘味で戦闘されることを想定していない」

 固有武器を想像で創造できる。特典を片手に転移を果たしたところまでは、小説よりも都合がいいプロローグだった。無難に目覚め、順当に探索し、都合よく親切な少女と出会う。妄想を具現化したような、山も海もないなだらかな道を歩き続けて――。
 突然、落とし穴にはまった。まさか武器創造が1回こっきりの奥義だとは、神様もケチなものだ。などと脳内で悪態をついてみるものの、しかしスキルを使用してお手頃価格な甘味を生成する僕が、他人を狭量だと罵ることは、傍からみれば随分と滑稽に映る事だろう。その証拠に、横を歩く黒髪少女は苦笑いしたままだ。

「まあ、起きてしまったことは仕方ない。ここらの洞窟で適当にモンスターを狩って、報酬で安い武器を買おう。転移特典なんて最初からなかった、そう思ってしまえば、キミは何も不幸じゃないさ」
「井村さん、含み笑いで泣き顔を作るのはやめてください」

 僕は今、彼女と共に獣道を探索している。転移してから数時間、今日食べる金を持ち合わせず、しかも武具もあすきヴァ―だけ、という僕を見かねて、黒髪少女の方から共同依頼の話を持ってきてくれたのだ。聞くところによると、彼女もまた転移者らしく、同郷のよしみ、というヤツを発揮してくれたらしい。

 草木が生い茂る山の中、一流の装備をそろえた井村さんの横を、殆ど一般人の僕が歩く。異世界に似合わないジャージ姿で、異世界に似合わないリュックを背負い、人間に似合わない大きな鞘を腰に下げて歩いている。目元がうっすらと湿り、辺りにほんのりと甘いにおいが漂っているような気がするが、さてどうしてだろうか。

 ふと隣を見ると、妙に緊張した顔の少女と目が合った。彼女は少女は一瞬だけ顔をしかめたのち、小さくため息を吐いて笑う。何か言いかけた様子だが、けれど投げられた話題は雑談でしかなかった。

「……、まあいいか。キミは向こうの世界で、あすきヴァ―をよく食べていたのかい?」
「ええ、それはもう。家の冷蔵庫には、ダース単位でキープしていますよ」
「おおう、それはまた熱心なファンだね。わたしは宇治銀時派だったよ」
「ということは、井村さんの転移特典はもしや?」
「違うからね。……そっか、わたしが居なくなった後も、あの甘味は――」

 剽軽な口調だったはずなのに、不意に彼女の頬は赤く染まって、ついにはプイと逸らされてしまう。それを訊き返そうとした僕の口は、開いて、息を漏らしかけて、あわてて言葉の代わりにくしゃみで誤魔化す。先輩転移者である少女の、堪え切れず涙を流す顔を、消え入りそうなほどに弱々しい声を、僕の五感は捉えることが出来なかった。そういうことにしておいた。

 見ず知らずの僕のことを、こうして助けてくれている。彼女の行動はどうしようもなく不自然だったが、きっとそれは現実世界への未練のあらわれだったのだろう。ならば僕は、愛剣の甘味のように、健気に振る舞う彼女を少しでも笑顔にしたい。英雄にはなれないかもしれないが、受けた恩を返せる一般人くらいは僕にも務まるはずだ。

 ……などという少年性が、心底痛々しい勘違いだと気づくのは、ほんの数分後のことだ。

「さて、素材集めの依頼はそろそろ達成かな?」
「そうですね。色々と迷惑をかけました、ありがとうございます」

 目的物の採集を終え、深々と頭を下げて――。
 どさり、と聞こえた次の瞬間、顔を上げた僕の視界に、黒髪少女の姿はなかった。

「……え」
「えっ」

 僕と第三者の驚愕が重なる。僕の動揺は、涙を流した井村さんが真っ赤な顔で地面に伏していたこと、それに対する恐怖と心配。そして目の前の信じがたい光景に脳の処理が追いついていないことに由来する。
 第三者の正体は、生い茂る草木の向こう側、突然現れた茶色マントの二人組。背の高い男と、背の低い女。それらの会話が、置いてけぼりの僕に現状を突きつけてきた。

「あっちのヤツ、どうして泣かない、どうして倒れない? アタシの毒が効いていないってのか?」
「……落ち着けチビ、あいつは加護持ちだ。何処で手に入れたかは知らないが、微生物に耐性を持っているらしいな」

 先ほどから辺りの空間に蔓延っていた甘い香り、そして突然流れ出した涙が、第三者の悪意によって起こされたことだと、僕はようやく理解した。理解して、再度命の危険を感じることになった。茶色マントは山賊なのだろうか、いずれにせよ、僕たちを狙っていることは間違いない。

「でもまあ、アタシの毒で護衛の方は無力化できたからな、あとはあっちを処理すれば終わりだ。丸腰な上、奇妙な恰好をした奴だ、きっとあの鞄の中には大層なモノが入っているぜ。ほら、アタシは毒管理で忙しいから、さっさとしてくれ」
「そうだな、手早く済ませるか。……おいお前、ここで死ぬか、荷物と女を置いて逃げるか、好きな方を選べ」

 言葉と共に茶色マントの男がナイフを右手に持ち、僕に向かって歩いてくる。ジャージを着てリュックを背負った人間が珍しい、だから身ぐるみを剥いで持って行こう。などとは随分と分かり易く、そして初心者に厳しい世界だ。

 彼らの眼には、井村さんは護衛で、僕は守られる対象に見えたようだ。実際のところ、僕には戦闘経験なんてないし、鞄の中には現実世界産の携帯食料類がたっぷり詰まっている。あながち的外れでないぶん、誤解を解くのも難しい。
 荷物を捨てて逃げれば、あるいは助かるかもしれない。そう考えかけて、僕は自分のことを殴りたくなった。つい数分前に、受けた恩くらいは返したい、と決めたばかりではないか。けれど彼女を担いで逃げる、そんなことは僕の身体能力では不可能で、つまり今は茶色マントたちを追い払う他にないのだ。

「逃げない、か。悪いが、こっちも命がけなんでな。俺たちは、見知らぬ千人を殺してでも生き残る。恨むなら魔王を恨めよ」
「……キミ、いいから早く逃げてくれよ。大丈夫、わたしなら平気だから、さ」

 マント男の情け容赦を切り捨てた言葉。黒髪少女の精一杯の虚勢。それは、震える僕に剣を取らせるには十分で――。
 腰に備えたあすきヴァ―、その柄に手を掛けた瞬間に、僕はこの武具の力を全身で知った。微生物耐性なんかは単なるおまけだ、甘味の品質劣化を防ぐ副産物でしかない。この武器の力は、もっと身近で、もっと単純で、そして最も誇らしい。
 他人どころか、小動物とも喧嘩したことは無い。包丁すらロクに握ってこなかった僕だが、けれど鬼気迫るこの瞬間、凶器を迎え撃つこの場面だけは、まったく負ける気がしなかったのだ。

 マント男がこちらに向かって走り出した次の瞬間。一度の呼吸すらも待ってくれない僅かな時間のあと。僕はすでに、命の危機を脱していた。

「取り出したばかりのあすきヴァ―に、刃が立つわけがないだろう?」

 僕がしたことといえば、甘味武具を抜いて構えただけ。たったそれだけで、敵のナイフはぽっきりと折れ、宙を舞い、遠くの草むらに落下した。
 あすきヴァ―は強い。ぼんやりとしたイメージの名剣とは、比べ物にならないほどに強い。なぜならその硬さと冷たさ、そして隠された温もりを、元の世界の大勢が身をもって感じた甘味なのだ。歯を弾くのであれば、これに勝る武具はない。

「お二人、僕たちを見逃してくれませんか。貴方がたにも何か事情はあるのでしょうし、僕としては井村さんが快復するのであれば、それ以上のことは求めません」
「……拒否したら、どうする気だ」
「差し違える覚悟くらいは出来ています」

 もう少しマシな虚勢の張りかたは無かったのか。あすきヴァ―は防御武具だろうから、僕には彼らを撃退する術はない。その現実が、この身を焦らせ、結果この始末だ。
 だがマントたちは虚勢に騙され、あるいは見抜いたうえで引いてくれたのか、次の瞬間には僕達の視界から消え、再び現れることは無かった。それを確認して、念のため十秒間警戒を続けて、僕はようやく膝から崩れることができた。

「井村さん、平気ですか、大丈夫ですか?」
「わたしは平気、って言っただろう? ……でも、ありがとうね」

 よくよく考えれば、先輩転移者の彼女があれほどあっさり無力化されるとは思い難いのだが、僕がそれに気づいたのはずっと先のことだ。今はとにかく、彼女を守れたことに対する安堵と、自分の愛剣に対する信頼で、どうしようもなく満たされていた。

「彼らは、魔王を恨め、と言っていたね。きっと、魔王の熱魔法によって飢餓に苦しめられている村人なんだろう」
「魔王、ですか。……そうですね、僕は転移者ですから、ね」

 ぱちん。自分の頬を思い切りたたき、心を決める。

 それは、世界を巣食う悪を滅ぼすには、余りにもちっぽけだ。
 それは、世界を救う勇者の一歩目にしては、余りにも情けが深い。
 けれど僕は、どうしても口にしたくなった。庶民でも戦える、素人でも守れる。それほどまでの武具を手にしたのだから、僕は戦うべきなのだ。心に刻まなければならない、勇者の使命感ともいうべき熱い感情が、ちっぽけな身からあふれ出した。

「まっていろ、魔王。必ずお前を止めてみせる。この世界の温暖化を止めてみせる!」
「……うん。キミ、鏡でも見てきなよ。どれだけ頑張ったところで、甘味片手じゃあ絵にはならないさ」

 恰好をつけてはみたものの、愛剣も相棒も冷え切っていた。


深夜のテンション。

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