【短編小説】カプセル

小説とか

 自作短編小説、『カプセル』を晒すページです。文字数は2千、読了目安は2分です。

 あらすじ:タイムカプセルを掘りに行く少年の話です。

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カプセル

「この疲労感、ちょっと懐かしいな」

 シャベルを両手で支え、地面に突きつけながら、疲れきった全身に言い訳をするように呟く。19歳最後の一日、僕は過去に通った小学校を訪れて、校庭の南端で淡々と力仕事をしていた。太陽は茜色へと表情を変え、最初は溌剌としていた僕も筋肉の悲鳴に顔をしかめている。
 タイムカプセル。僕は今日、小学校の卒業式後にひっそりと埋めておいたそれを、今更になって回収しに来ていた。二十歳になる前日に掘り起こせ、という当時の悪ガキから送られてきた手紙に従い、かれこれ3時間ほど穴を掘り続けているのだ。だが、今のところ儲けたものは草臥れだけだった。

 何を埋めたか、などという事は一切覚えていないが、どうせ大それたものではないだろう。好き勝手に遊んで、スケールの小さい悪巧みに明け暮れ、毎日のように大人たちに説教される。周りに迷惑をかけ続けていたあの頃は、何の悩みもなくはしゃぎ回っていた。涙腺狙いの感動メッセージなど、そのような子供が残している訳はない。
 消せるボールペンを文具屋で購入し、教師のノートに落書きをしてやったこともあった。近所の中学生に教えてもらった魔法を理科室で披露して、こっぴどく叱られたこともあった。しょうもない悪戯の類は、数え始めたら日付が変わってしまう。

「……お、これか?」

 がきり、という音と共に、シャベルを握る手に硬い感触が伝わる。やっと帰れる、という安堵を生成しながら、掘り進めること十数秒。筆箱ほどの大きさの金属製タイムカプセルは、8年ぶりに日の下へ晒された。
 土にまみれた銀色は、きっと小学生の目には高級に映ったのだろうが。けれど成人間際となった今では、最早子供の玩具にしか見えてこないのだから不思議な話だ。渾身の力を込めて締めただろう蓋も、少し手首に力を込めるだけで簡単に開いてしまった。
 授業で自作したオブジェでも入っているのか、それとも流行っていたカードゲームでも封印されているのだろうか。はたまた、悪戯詰め合わせセットになっているかもしれない。わくわくとびくびくが混じり合う正体不明の感情は、僕の中で次第に大きくなっていく。

「……ん、これが本体か?」

 缶の中に入っていたものは、セロハンテープでぐるぐる巻きにされた紙袋。表面にはノートの切れ端がのり付けされていたのだが、これが見るからに厄介で、拗らせた小学生らしいものだった。

『■■■■』

 表紙ラベルは、黒いインクで目いっぱいに塗りつぶされていたのだ。機密事項のようで格好いい、とでも勘違いしたのだろうか。この調子では、袋の中にはシュレッダーに掛けられたテストの答案でも封印されているのかもしれない。子供の頃に封印したかった書類など、それくらいのモノだ。

 出鼻をくじかれたが、ターゲットを発見した手前で引くわけにもいかず。むしろ、インクの下に何を書いたのか推理してやろう、などという正体不明の対抗心を燃やしながら、僕は紙袋を乱暴に開封した。
 が、これが失敗だったと気づくのは、僅か5秒後の事だ。ほんの少しだけ燃え始めていた心は、手に伝わる物理的な熱に上書きされてしまった。

「うわ、何だこれ熱っ!」

 予想外の感覚に動揺し、大きく間抜けな声が口元をすり抜ける。紙袋は封を切ってすぐ、急激な温度上昇を起こしたのだ。手を襲う不意打ちに対応できず、僕は持っていたそれを地面に落としてしまった。
 当時の少年は、トラップでも作った気になっていたのだろうか。引っかかる人間が将来の自分であることくらい、12歳の悪ガキにも理解できそうなものだが。……数時間疲労を重ね、ようやくたどり着いた土産がこれなのか。

 しかし、過去の自分へ向けられた訝しみは、瞬きを3回繰り返したころには別の感情へと移り変わっていた。投げ出された袋の表情を見て、子供の浅知恵に一杯食わされたことを理解したのだ。

『あばよ!』

 デカデカとした殴り書き。繕いのない小学生相応の言葉が、そこに浮かび上がっていたのだ。塗りつぶしに使われていた黒色はいつの間にか見当たらなくなっており、代わりに小憎たらしい赤文字が顔を覗かせている。
 どうやら伏字に使われていたインクは、熱で消える類のモノだったらしい。ならばきっと、熱は小手先の理科魔法、カイロのような仕組みで生み出されたものなのだろう。背伸びをした小学生の合わせ技に、ふふっ、と小さく声が漏れた。
 どうやら大人になったはずの青年は、小学生が残した8年越しの置き土産に、真正面から引っ掛かってしまったらしい。先ほどまでのやるせなさは消え去り、代わりに敗北感が急激に成長し、奇妙な微笑みとなって顔に現れた。

「あばよ、悪ガキ」

 10代最後の一日を染め上げた色は、西日のオレンジと、殴り書かれた赤インク。とっておきの悪戯を浴びてしまった身では、捨て台詞を吐くくらいが精一杯だった。


 お読みいただきありがとうございます。『伏字』のお題と、2000字の上限で書いた文章ですが、山なし落ちなしとなってしまいました。

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